親が亡くなったら借金は相続人が引き継ぐの?相続したくないときの対処法を解説

法律

「親が亡くなって借金が発覚した」というケースは少なくありません。
また、現在親が借金を抱えていて「親が死んだら子供である自分がその借金を負担しなければならないの?」と、不安を感じる方もいるかと思います。

この記事では、親が亡くなった後の借金を相続しない方法、その具体的な手続きを詳しく解説します。不安を感じている方や悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。

原則、親の借金は相続人が引き継ぐ

法律上、相続人は故人の全財産を受け継ぐのが原則であり、預金や不動産などのプラス財産だけでなく、借金などのマイナス財産も相続します。そのため、故人に借金があった場合は、相続人が返済する義務を負います。

仮に父親が亡くなった場合、配偶者である母親とその子供たちが法定相続人となり、借金を含めた財産を受け継ぐことになります。

親の借金を相続しない方法

親が亡くなったとき、相続人には「単純承認」「相続放棄」「限定承認」の選択肢があります。

単純承認を選択すると、故人のプラス財産もマイナス財産もそのまま全て相続することになります。そのため、借金を相続したくない場合は、相続放棄、限定承認のいずれかを選ぶ必要があります。

ここからは、それぞれの方法について詳しく解説します。

相続放棄をする

相続放棄とは、相続人としての地位を放棄し、故人の遺産を一切引き継がないとする手続きです。これにより、借金を含むマイナス財産も全て放棄できるので故人の借金を相続せずに済みます。

相続対象になるマイナス財産は、借金やカードの借入、ローン、滞納家賃、滞納税、損害賠償債務などさまざまなものが含まれます。
たとえ親が多額の負債を残して亡くなったとしても、相続放棄を行えば、それらの返済義務を負うことはありません。

また、相続放棄を行えば遺産分割協議に参加する必要もなくなるため、相続人同士の揉め事やトラブルに巻き込まれないメリットもあります。

相続放棄の注意点

相続放棄をすると、預金や不動産などのプラス財産も一切受け取れなくなります。

また、一度相続放棄の手続きを行うと、後から撤回することができません。後に借金額を超える遺産が見つかっても、相続できない点には注意が必要です。

相続放棄を検討する際は、事前に個人の財産内容を正確に把握することが大切です。

限定承認をする

限定承認とは、故人のプラス財産の範囲内でマイナス財産を相続する手続きです。

例えば、亡くなった親に500万円の借金と300万円の預貯金があった場合、相続人が限定承認を選べば、借金のうち300万円を返済すればよく、残りの200万円は支払う必要がありません。
このように、想定外の借金を背負うリスクを抑えられるのが限定承認のメリットです。

また、プラスの財産が借金を上回るケースでは、その差額分の財産を相続することも可能です。借金を回避しつつ、プラス財産を受け取れる点もメリットの1つです。

さらに、限定承認では先買権の制度が利用できます。先買権とは、どうしても引き継ぎたい財産がある場合に、相当金額を支払ってその剤サインを優先的に取得できる権利です。例えば、「どうしても住宅だけは残したい」という場合、相続財産のトータルがマイナスでも、先買権を利用すれば住宅を相続できる可能性があります。

限定承認の注意点

限定承認を行うには、相続人全員が同意し、共同で家庭裁判所に手続きを申し立てる必要があります。1人でも反対する相続人がいると限定承認は行えません。

さらに、限定承認は手続きはが複雑で、提出書類が多く、家庭裁判所での対応が必要です。
そのため、事前に故人の財産状況をよく調べた上で、限定承認を行う必要性やメリットがあるか慎重に判断することが重要です。

相続放棄の流れ

相続放棄をするのに、他の相続人の同意は不要です。そのため「自分だけ放棄したい」という場合でも、問題なく手続きできます。

ここからは、親が亡くなった場合に相続放棄するときの具体的な流れを詳しく解説します。

①相続財産を調査する

まずは、相続財産の状況を調査し、相続放棄するかどうかを判断します。

②必要書類を準備する

相続放棄する場合は、次の書類を準備します。

  • 相続放棄申述書(放棄する理由や相続財産の概略など必要事項を記入)
  • 亡くなった親の戸籍謄本
  • 亡くなった親の住民票または戸籍の附票
  • 相続放棄する本人の戸籍謄本

③家庭裁判所に必要書類を提出する

必要書類が揃ったら、亡くなった親が生前最後に住んでいた住所地の家庭裁判所に提出します。

④照会書に回答する

家庭裁判所に書類を提出して、数週間~1カ月経つと照会書が届きます。

死亡を知った経緯や自分の意思で相続放棄を行うのかなどを確認する書面です。確認事項に回答を記入し返送します。

⑤相続放棄申述受理通知書が届く

相続放棄申述書が受理されると、数週間から1カ月後に裁判所から相続放棄申述受理通知書が届きます。

限定承認の流れ

限定承認は、他の相続人と共同で行う必要があり、相続放棄に比べて手続きも複雑です。

ここからは、限定承認の手順を詳しく解説していきます。

①相続財産と法定相続人を調査する

まずは故人が残した財産状況を把握しましょう。あわせて、誰が法定相続人にあたるのかも確認します。

限定承認は、相続人全員で共同で行う必要があるため、事前の調査が重要です。

②相続人全員に相談する

限定承認をするには、相続人全員の同意が不可欠です。

相続人の1人でも反対したり、遺産の処分(口座の解約、家の売却など)を行うと、単純承認とみなされてしまう可能性があります。そのため、できるだけ早い段階で相談し、話し合うことが重要です。

③必要書類を準備する

限定承認には、次の書類が必要です。

  • 限定承認の申述書
  • 財産目録
  • 死んだ親の出生から死亡までの戸籍
  • 死んだ親の住民票または戸籍の附票
  • 法定相続人全員の戸籍

状況によっては、追加書類が必要になることがあります。

④家庭裁判所に申述する

必要書類が揃ったら、故人が生前最後に住んでいた住所地を管轄する家庭裁判所に、相続人全員で限定承認の申述を行います。

⑤照会書に回答する

申述後、数週間~1カ月後に照会書が送られてくるので内容を確認して返送します。この際に追加書類の提出を求められることがあります。

限定承認の申述が受理されると、裁判所から受理通知書が届きます。

⑥相続財産管理人を選任する

限定承認の申述が受理されると、相続財産の清算手続きに入ります。

相続人が1人であれば、その人が相続財産管理人となりますが、複数人いる場合は相続財産管理人を選任する必要があります。

⑦官報公告

債権者に対して限定承認する旨を知らせるために、官報(政府が発行する機関紙)に公告します。

すでに把握している債権者に対しては、官報公告だけでなく個別に通知が必要です。

⑧債権者に弁済する

官報公告後、プラス財産を現金化し、債権者に弁済していきます。預貯金は解約され、不動産や有価証券などもすべて換価されます。

どうしても手元に残したい財産がある場合は、先買権を利用し、優先的に買い取ることが可能です。

⑨残余財産を取得する

すべての債務を返済し、残った財産がある場合は相続人が受け取ることができます。

その際、法定相続の割合に従って分配するか、遺産分割協議で話し合って決定します。

相続放棄・限定承認の注意点

相続放棄と限定承認は、借金の相続を免れるために有効な手段ですが、注意点もあります。

期限内に手続きを行うこと

相続放棄と限定承認は、相続の開始があったことを知った日から3カ月以内に行う必要があります。何もせず3カ月を過ぎると、単純承認したとみなされるので注意しましょう。

特に限定承認は、法定相続人の調査や話し合いに時間がかかる可能性があるため、できるだけ早い段階で着手することをおすすめします。期限内の手続きが難しい場合は、裁判所に期限伸長の申立てを行いましょう。

相続財産の処分行為を行わないこと

相続人の1人でも、相続財産の処分(故人の預貯金の引き出し・解約、不動産の売却など)を行うと、「相続の意思がある」として、単純承認とみなされる可能性があります。

その結果、相続放棄や限定承認の手続きをとれなくなるので注意しましょう。

まとめ

相続放棄や限定承認を行うことで、借金の相続を免れることができます。ただし、手続きの期限や財産の処分などには注意が必要です。

手続きに不安がある場合は、行政書士などの専門家に依頼することをおすすめします。

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