こんにちは。さきです。
今回は、賃貸物件の相続について解説します。
アパートやマンションなどの賃貸物件を所有している人が亡くなったとき、その賃貸物件も相続の対象
となります。
賃貸物件を相続することになった場合、親族間の遺産分割や税金などの問題で悩まれる方は多いのかと思います。
賃貸物件を相続するときの流れや、遺産分割やかかる税金などを詳しく解説するのでぜひ参考にしてください!
賃貸物件を相続するときの流れ
まずは、賃貸物件を相続したときの手続きの流れを紹介します。
①賃貸物件の残債務を確認する
賃貸物件を相続したら、まずはその物件にローンなどの債務が残っていないか確認します。
被相続人がマンションやアパートを一括購入しているケースは少なく、ほとんどはローンを組んでいます。もし賃貸物件にローンが残っていたら、相続人は、引き続き返済する必要があります。
そのため、毎月の支払金額や返済先の金融機関、支払い期日などをあらかじめ確認しておく必要があるのです。
賃貸物件の残債務が多すぎて、家賃収入を加味しても債務の返済が難しい場合は相続放棄を検討する方法もあります。
ただし相続放棄すると、ローンなどのマイナス財産だけでなくプラスの財産も放棄することになるため、慎重に検討する必要があります。
②賃貸物件の管理・修繕状況を確認する
次に、賃貸物件の管理状況と修繕状況を確認します。
被相続人が賃貸物件の管理を管理会社に委託していた場合、毎月管理手数料が発生しているはずです。
そのため、物件の所有者が亡くなったことを管理会社に連絡し、管理費を確認する必要があります。
また、物件の修繕費用は原則所有者負担です。
もし大規模な修繕の予定がある場合、高額な修繕費用がかかるため、相続人はその修繕費用を確保しておく必要があります。
そのため、修繕状況や修繕予定についても、なるべく早い段階で確認が必要です。
③賃貸物件の相続人を決定する
賃貸物件の状況を確認できたら、相続人を決定します。
被相続人が遺言書を残している場合は、その内容に従って相続人が決定します。
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、賃貸物件の相続人を決めます。
その場合、単独相続にするのか、共有名義にするのか、共有名義であれば持分をどうするのかなども協議します。
遺産分割協議の段階で十分に話し合わないと、後々相続トラブルになります。
親族間できちんと話し合い、全員の納得を得ておくことが重要です。
④相続登記する
相続人が決まったら、法務局で、亡くなった人から相続人への名義変更登記を行います。
名義変更を行わないと、相続人は不動産の売却や抵当権の設定を行えません。
後々不便が生じないためにも、遺産分割協議が整ったら、なるべく早く手続きしましょう。
2024年4月より相続登記は義務化されました。
相続人が不動産を取得することを知った日から3年以内に登記手続きを行わなければなりません。正当な理由なく相続登記を行わないと、罰則の対象になるため注意しましょう。
相続登記するときに必要な書類
法務局で相続登記するときは、次の書類が必要です。
・賃貸物件の登記事項証明書
登記申請書や遺産分割協議書を正確に作成するために取得します(相続登記の添付書類ではありません)。
・登記申請書
相続登記を申請するために必要な書類です。法務局のホームページにデータや記載例があります。
・遺産分割協議書
取得した登記事項証明書をもとに、登記する賃貸物件の情報や遺産分割協議の結果を記載し、相続人全員が実印で押印します。
・亡くなった人の出生から死亡までの連続する戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本
遺産分割協議書に押印した相続人以外に相続人がいないか確認するため、亡くなった人の出生してから死亡するまでの連続する戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本を準備します。
・亡くなった人の住民票の除票または戸籍の附票
亡くなった人の最後の居住地がわかる住民票の除票または戸籍の附票です。
・相続人全員の戸籍謄本
相続人全員が生存していることを確認するため、戸籍謄本を取得します。
・相続人全員の印鑑証明書
遺産分割協議書の相続人の押印が実印であることを証明するために印鑑証明書が必要です。
・賃貸物件の相続人の住民票
賃貸物件の新しい所有者の住所を登記するため相続人の住民票を準備します。
・賃貸物件の固定資産評価証明書または評価通知書
賃貸物件の登録免許税を正確に算出するため、賃貸物件の固定資産評価証明書または評価通知書が必要です。
⑤管理会社や保険会社の契約内容を変更する
保険会社や管理会社に連絡し、契約名義の変更手続きが必要です。
特に火災保険に関しては、「名義人が被相続人のままであったために保証金を受け取れなかった」というトラブルを避けるためにも必ず名義変更を行うようにしましょう。
賃貸物件を相続するときの遺産分割方法
賃貸物件を相続するときの遺産分割方法には、大きく現物分割、代償分割、換価分割の3つがあります。
ここからは、それぞれの分割方法を詳しく解説します。
現物分割
現物分割は、不動産などの財産をそのまま相続する遺産分割方法です。
例えば、「賃貸物件Aは妻が相続し、賃貸物件Bを長男が相続し、車と預金は次男が相続する」などです。
最もシンプルな分割方法ですが、相続人の数だけ相続物件があったり、物件の価値が同等であったりすることは少ないでしょう。そのため、平等に分割することは難しいと考えられます。
代償分割
代償分割とは、相続人の1人が物件を取得し、他の相続人に代償金を支払う分割方法です。
例えば、「賃貸物件(評価額3,000万円)を長男が相続する代わりに、次男と三男には1,000万円ずつ支払う」などが挙げられます。
同等の価値のある相続物件が相続人の数だけない場合に選択できるのが特徴です。
一方で、賃貸物件の相続人が、他の相続人に代償金を支払うための金銭を確保する必要があることや、期日になっても代償金が支払われずトラブルになる可能性があるなどの注意点があります。
換価分割
換価分割とは、相続物件を換価して金銭を分割する分割方法です。
例えば、「相続した賃貸物件を売却して、売却代金を複数の相続人で分ける」などが挙げられます。
財産を平等に分けやすいのがメリットですが、賃貸物件を手放さなければならないことや、売却によって譲渡所得税がかかることには注意が必要です。
賃貸物件を相続したときの相続税評価
一般的に、賃貸物件の相続では、居住用物件よりも相続税評価額が低く算出されます。
人に賃貸している分、相続人が任意に物件を売却したり、修繕したりすることが難しく、融通が利きにくいためです。
基本的に、不動産の相続税評価は、土地と建物を分けて考えます。
まず、土地の相続税評価の方法には、路線価方式と倍率方式の2つがあります。
路線価方式は、市街地で一般的に使われる方法で、路線価(所有地に面した道路に割り当てられた1㎡あたりの価格)によって算出します。
一方、路線価が定められていない郊外部などの地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて相続税評価額を算出する倍率方式が使われます。
また、建物の相続税評価額は固定資産税評価額をもとに算出されます。
賃貸物件の場合は、所有者の自由な処分や使用収益が難しいため、減額措置を受けられるため、賃貸物件の土地・建物の相続税評価額は、それぞれ次の計算で算出できます。
賃貸物件の土地の評価額=自用地の評価額-(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
賃貸物件の建物の評価額=固定資産税評価額-(1-借家権割合×賃貸割合)
借地権割合:路線価図で確認でき、地域によって30~90%で定められる
借家権割合:賃貸物件の評価に利用される割合で、一律30%と決まっている
賃貸割合:実際に貸し出している面積の割合
賃貸物件を相続したときにかかる税金
賃貸物件を相続するときにかかる税金は、相続税、登録免許税、固定資産税・都市計画税、所得税・住民税です。
ここからは、それぞれの税金について詳しく解説します。
相続税
賃貸物件を相続すると、相続税が発生する場合があります。
まず前提として、相続税は、遺産総額のうち基礎控除金額を超えた部分に課されるため、遺産総額が基礎控除金額以下の場合は相続税の申告は不要です。
相続税の基礎控除額は、3,000万円+(600万円×法定相続人の数)で計算します。
例えば法定相続人が、配偶者と子供の合計2人の場合は、
3,000万円+(600万円×2人)=4,200万円が基礎控除額です。
このケースで、仮に遺産総額が6,000万円の場合は、
6,000万円-4,200万円=1,800万円に相続税が課されます。
遺産総額が4,200万円以下であれば申告は不要です。
相続税の申告は、被相続人の死亡が確認された翌日から10カ月以内に行うのが原則です。
申告漏れが起きないよう、なるべく早い段階で手続きするようにしましょう。
登録免許税
登録免許税は、不動産の登記申請をするときにかかる税金です。
亡くなった人から相続人の名義に変更するとき、法務局に登録免許税を支払います。
登録免許税は、不動産の課税標準額×2%で算出されます。
例えば、不動産の課税標準額が2,000万円の場合、
2,000万円×2%で40万円が登録免許税となります。
不動産の課税標準額とは、固定資産評価額を計算するときに基準になる額のことで、基本的に課税標準額と評価額は同じと考えて問題ありません。
固定資産税・都市計画税
固定資産税や都市計画税は、土地や建物を所有しているとかかる税金です。
都市計画税は、市街化区域内に土地や建物を所有しているときに課されるもので、一般的に固定資産税と一緒に納めます。
その年の1月1日時点の所有者に対して、その所在地の市町村から課税されます。
固定資産税評価額をもとに課税標準額が算出され、
固定資産税=課税標準額×税率(1.4%)
都市計画税=課税標準額×税率(0.3%) の計算で算出できます。
所得税・住民税
所得税と住民税は、個人の1年間の所得に対して課される税金です。
賃貸物件を相続して家賃収入を得た場合は、その収入から必要経費を差し引いた不動産所得に所得税や住民税が課されます。
必要経費には、賃貸物件に係る固定資産税や都市計画税、事業税、修繕費や保険料、広告宣伝費などが含まれます。
まず、所得税は、5%~45%の7段階に分かれ、各段階の所定金額を超えた部分に対してそれぞれの税率が適用されます。
例えば、課税所得金額が650万円の場合、
195万円までに対しては税率5%、195万円~330万円までに対しては税率10%、
330万円~650万円までに対しては税率20%が課税されるのです。
つまり、195万円×5%+(330万円-195万円)×10%+(650万円-330万円)×20%で、87万2,500円が所得税額となります。
住民税は、自治体によって多少異なりますが、所得金額の10%程度となります。
そのため、所得金額が650万円であれば、650万円×10%で、約65万円の住民税がかかります。
賃貸物件を相続するときの注意点
賃貸物件を相続するときは、次の2つに注意する必要があります。
・共有名義にするとトラブルになりやすいこと
・敷金や修繕費を確保すること
ここからは、それぞれの注意点を詳しく見ていきましょう。
共有名義にするとトラブルになりやすいこと
まず、相続した賃貸物件を共有名義にするとトラブルに発展しやすいことです。
賃貸借契約を締結するときや、将来的に賃貸物件を売却するときなどに、共有名義人全員の同意が必要となるためです。
例えば、親から相続した賃貸物件を長男と次男の共有名義にしたとします。
数年経って、長男は賃貸物件を売却をしたいと提案しましたが、次男はこのまま賃貸を続けたいと意見が分かれるケースがあります。
共有名義は、相続人を1人に決めなくて良いというメリットがありますが、将来的に意見が分かれてトラブルに発展するリスクに注意しましょう。
敷金や修繕費を確保すること
2つ目は、敷金や修繕費などの費用を確保する必要があることです。
賃貸物件を所有している場合、賃貸人が敷金や保証金を預かるのが一般的です。
借主との賃貸借契約を解除するとき、相続人が敷金や保証金を借主に返還しなければなりません。
また、原則、経年劣化や通常損耗の修繕費用は貸主が負担します。
物件状況によっては大規模な修繕が必要となり、多額の費用がかかることもあります。
賃貸物件の相続人は、あらかじめ敷金や保証金、修繕費用などの資金を確保しておく必要があります。
まとめ
賃貸物件の相続は、通常の不動産相続と違って、手続きや相続税評価方法などが複雑です。
所有者が亡くなった後、相続人が賃貸物件のオーナーとして運用を継続できるのか、どのように運用していくのが最適かなどをよく検討しなければなりません。
また、不動産の相続は親族間でトラブルになりやすいため、遺産分割協議などの手続きを慎重に進める必要があります。
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